用語・基礎の解説
初心者でもわかる!内線規程に基づく集合住宅の幹線設計を基礎から解説
マンションやアパートなどの集合住宅を設計するとき、電気設備設計者が必ず考えなければならないものの一つが「幹線」です。
しかし、初めて幹線設計を担当すると、
「そもそも幹線って何?」
「各住戸の容量を全部足せばいいの?」
「需要率って何のためにあるの?」
「電線サイズはどうやって決めるの?」
と疑問に思う方も多いでしょう。
そこで今回は、内線規程をベースにした集合住宅の幹線設計について、初めて学ぶ方でも全体の流れをつかめるように解説します。
※本記事は幹線設計の考え方を理解するための入門解説です。実際の設計・施工では、最新版の内線規程、電気設備技術基準・解釈、電力会社の供給条件、使用する電線・遮断器の仕様などを必ず確認してください。
1.そもそも「幹線」とは?
まずは「幹線」という言葉から理解しましょう。
集合住宅では、建物に供給された電気を各住戸へ届ける必要があります。
イメージとしては、
受電設備・引込設備
↓
幹線
↓
各階・各住戸
↓
住戸分電盤
↓
照明・コンセント・エアコンなど
という流れです。

道路に例えると、幹線は「大きな幹線道路」です。
そこから各住戸へ向かう配線が枝分かれしていくと考えると分かりやすいでしょう。
当然、幹線には複数の住戸で使用する電力が流れます。そのため、一般的な住宅の分岐回路よりも大きな電流を扱います。
幹線が細すぎれば、電線の許容電流を超えたり、電圧降下が大きくなったりするおそれがあります。
反対に、必要以上に太い幹線を選定すると、ケーブルや配管、ラック、遮断器などが大きくなり、工事費も上昇します。
つまり幹線設計とは、「必要な電力を安全に供給でき、なおかつ過剰設計にならない設備を計画すること」と考えるとよいでしょう。
2.集合住宅の幹線設計で重要な「需要率」
集合住宅の幹線設計を理解するうえで、非常に重要なのが「需要率」です。
例えば、10戸のマンションがあり、1戸当たりの想定負荷を4kVAとします。
単純に合計すると、
4kVA × 10戸 = 40kVA
です。
では、40kVAすべてが同じ瞬間に使用されると考えて幹線を設計すればよいのでしょうか。
実際の住宅では、すべての住戸が常に最大負荷で電気を使っているわけではありません。
ある住戸ではエアコンを使用し、別の住戸では外出中、さらに別の住戸では照明程度しか使用していない、といった具合に電気の使われ方は分散します。
そこで登場するのが「需要率」です。
簡単に表現すると、
需要率 = 実際に同時使用されると想定する割合です。

集合住宅では、この需要率を考慮することによって、より現実的な幹線容量を算定します。
3.集合住宅における幹線設計の基本的な流れ

集合住宅の幹線設計は、大きく分けると次の流れで考えます。
① 1住戸当たりの使用電力容量を想定する
② 幹線につながる住戸数を確認する
③ 住戸負荷の合計を求める
④ 需要率を適用する
⑤ 想定最大負荷を求める
⑥ 負荷電流を計算する
⑦ 遮断器を選定する
⑧ 電線サイズを選定する
⑨ 電圧降下などを確認する
最初から電線サイズを決めるわけではない、という点が重要です。
「どのくらいの負荷があるのか」を求め、それを電流に変換し、その電流を安全に流せる電線や遮断器を選定していきます。
4.STEP1:1住戸当たりの負荷を想定する
まず必要になるのが、1住戸でどの程度の電力が使用されるかという「負荷想定」です。
1住戸当たりの負荷容量を計算する方法は、大きく分けて次の2つがあります。
- 床面積から負荷容量を計算する方法
- 実際に使用する電気機器から負荷容量を計算する方法
床面積から計算する方法は、住戸の広さをもとに標準的な負荷を想定する方法です。一方、電気機器から計算する方法では、住戸に設置・使用される照明や家電、設備機器などの容量をもとに負荷を想定します。
それぞれの計算方法について見ていきましょう。
床面積から負荷容量を計算する方法
全電化住宅を除く集合住宅について、住戸の使用電力容量の計算方法として次の考え方が示されています。
P[VA]=40[VA/㎡]×床面積[㎡]+加算容量
加算容量については500~1,000VAとされ、1,000VAを採用することが推奨されています。
例えば、床面積75㎡の住戸を考えてみましょう。
40 × 75 + 1,000
= 4,000VA
つまり、
4,000VA = 4kVA
となります。
したがって、この例では1住戸当たり4kVAを想定することになります。

この方法では床面積から負荷を想定するため、「広い住宅ほど使用する電気設備も多くなる可能性が高い」という考え方が反映されています。
住戸ごとに使用する電気機器を細かく洗い出さなくても、床面積から一定の基準で負荷容量を算定できる点が特徴です。
使用する電気機器から負荷容量を計算する方法
もう一つは、住戸で実際に使用すると想定される電気機器から負荷容量を計算する方法です。
この方法では、照明、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、洗濯機、エアコンなど、住戸内で使用する電気機器を洗い出し、それぞれの容量をもとに負荷を想定します。
例えば、次のような電気機器を使用する住戸を考えてみましょう。
照明:500VA
冷蔵庫:300VA
電子レンジ:1,400VA
炊飯器:1,200VA
洗濯機:500VA
エアコン:1,000VA
これらの容量を単純に合計すると、
500+300+1,400+1,200+500+1,000
=4,900VA
となります。

ただし、住宅内にある電気機器が常にすべて同時に最大容量で使用されるわけではありません。そのため、実際の負荷想定では、各機器の容量を単純に合計するだけではなく、使用状況や同時使用の可能性などを考慮して検討します。
特に、IHクッキングヒーター、電気温水器、エアコン、浴室乾燥機など、容量の大きな設備が設置される住戸では注意が必要です。床面積から算定した負荷だけでは、実際の設備内容を十分に反映できない場合があるためです。
そのため、設置する設備があらかじめ分かっている場合は、それぞれの電気機器の容量を確認しておくことが重要です。
一方、電気機器から負荷容量を算定する場合でも、規程に基づく負荷想定の考え方を確認する必要があります。実際の機器から求めた値だけで判断するのではなく、床面積などから算定した規程上の想定値を下回らないよう注意しましょう。
このように、「床面積から計算する方法」と「使用する電気機器から計算する方法」には、それぞれ異なる特徴があります。
まずは床面積から標準的な負荷容量を算定し、容量の大きな設備などがある場合には実際の電気機器についても確認することで、住戸の設備内容を踏まえた負荷想定ができます。
5.STEP2:住戸数を掛けて合計負荷を求める
次に、その幹線から何戸へ電気を供給するのか確認します。
(例)
1住戸当たり:4kVA
幹線に接続する住戸:10戸
この場合、
4kVA × 10戸 = 40kVA
これが需要率を考慮する前の住戸負荷の合計です。
しかし、先ほど説明したように、10戸すべてが同時に4kVAを使用するとは限りません。
そこで次のステップで需要率を適用します。
6.STEP3:幹線の需要率を適用する
集合住宅では、接続される住戸数に応じて幹線の総合需要率を考慮します。
例えば、全電化を除く集合住宅について、内線規程に基づく需要率の例では、
5戸:100%
6戸:91%
10戸:70%
20戸:54%
30戸:49%
40戸:46%
といったように、住戸数が増えるにつれて需要率が小さくなっていきます。
なぜでしょうか。
住戸数が増えるほど、「全住戸が同じ瞬間に最大電力を使用する可能性」が低くなるからです。
10戸の集合住宅で需要率70%を適用する例
先ほどの10戸の例では、合計負荷は40kVAでした。
10戸に対する需要率を70%とすると、
40kVA × 0.70 = 28kVA
したがって、幹線設計上の想定最大負荷は28kVAです。

40kVAと28kVAでは大きな差があります。
需要率を理解することが、集合住宅の幹線設計において非常に重要である理由が分かると思います。
7.STEP4:kVAを電流Aに変換する
想定最大負荷が求められたら、次は電流を計算します。
集合住宅の住戸幹線では、単相3線式100/200Vが用いられるケースがあります。
今回の例では、
想定最大負荷:28kVA
単相3線式100/200Vで負荷電流を計算する
単相3線式100/200Vについて、200Vを基準として単純化して考えると、
I = 28,000 ÷ 200
= 140A
つまり、幹線には約140Aの負荷電流が流れる想定です。

ここまで計算できると、ようやく遮断器や電線サイズの検討へ進めます。
8.STEP5:遮断器を選定する
次に幹線を保護する配線用遮断器などを選定します。
先ほど求めた負荷電流が140Aだった場合、
「140A流れるから140Aの遮断器」
と単純に決めるわけではありません。
実際には規格化された遮断器の定格電流から適切なものを選びます。
例えば設計条件によっては150Aなど、負荷電流をカバーできる定格を検討することになります。
ただし、遮断器だけを大きくすればよいわけではありません。
非常に重要なのが、「遮断器と電線をセットで考える」ということです。
遮断器の役割の一つは、過電流によって電線が危険な状態になることを防ぐことです。
そのため、選定した遮断器に対して、電線の許容電流が適切であることを確認しなければなりません。
9.STEP6:電線サイズを決める
電線には「許容電流」があります。
これは簡単に言えば、「この条件なら、この程度までの電流を安全に流せる」という目安です。
同じ断面積のケーブルでも、下記の条件によって許容電流が変わることがあります。
- ケーブルの種類
- 配線方法
- 周囲温度
- 電線管への収容状況
- 複数ケーブルの近接状況
そのため、「140Aだから○sq」というように、負荷電流だけを見て機械的に電線サイズを決めるのは危険です。
実務では、下記のような複数の条件を確認して最終的な電線サイズを決定します。
負荷電流
↓
遮断器の定格
↓
電線の許容電流
↓
施工条件による補正
↓
電圧降下

10.幹線設計で忘れてはいけない「電圧降下」
電線には電気抵抗があるため、電流が流れると送り出した側より負荷側の電圧が低下します。
これが「電圧降下」です。
特に、
- 高層マンション
- 横に長い集合住宅
- 電気室から住戸までの距離が長い建物
では重要なチェック項目になります。
例えば、許容電流だけならあるサイズのケーブルで問題なくても、配線距離が長ければ電圧降下が大きくなり、一段階またはそれ以上太いケーブルが必要になる場合があります。

したがって、「許容電流を満足したから幹線設計終了」ではありません。
幹線設計では、
①負荷容量
②需要率
③負荷電流
④遮断器
⑤電線の許容電流
⑥電圧降下
を一連の流れとして確認することが大切です。
11.集合住宅の共用部の負荷はどうする?
集合住宅には住戸以外にも電気を使用する設備があります。
例えば、
- 共用廊下照明
- エントランス照明
- エレベーター
- 給水ポンプ
- 排水ポンプ
- 換気設備
- 機械式駐車設備
- 宅配設備
- 管理室設備
などです。
これらは住戸負荷とは性質が異なるため、「住戸数×住戸負荷×集合住宅の需要率」の中へ何でも入れてしまうわけではありません。
共用設備については、それぞれの設備容量、運転条件、需要率、始動電流などを確認し、設計条件に応じて適切に算定する必要があります。
特にモーターを使用するポンプやエレベーターなどは、単純な照明・コンセント負荷と同じ感覚で扱わないことが重要です。
12.オール電化住宅では幹線設計の考え方が異なる
ここまで紹介した負荷想定や需要率は、基本的に「全電化を除く集合住宅」をイメージしたものです。
オール電化住宅では、
- IHクッキングヒーター
- 電気給湯設備
- その他の大容量200V機器
などが使用されるため、一般的なガス併用住宅とは電力使用特性が異なります。
そのため内線規程でも、全電化集合住宅については別途設計上の考え方が示されています。
初心者の方は、「集合住宅なら全部同じ需要率を使える」と覚えないよう注意してください。
まず、「この集合住宅は一般住宅なのか、全電化住宅なのか」を確認することが重要です。
13.集合住宅の幹線設計では将来の負荷増加も考えておく
幹線は一度施工すると、簡単には交換できません。
特に集合住宅では、竣工後に、
- IH機器の普及
- 大型エアコンの増加
- 乾燥機や食器洗浄機などの普及
- EV充電設備の導入
- 各種電化設備の増加
などによって電力需要が増える可能性があります。
そのため、現在の負荷だけでぎりぎりの設計をするのではなく、将来的な負荷増加も考慮しておくことが大切です。
電気設備学会のFAQでも、実際の設計では住居内容に応じて余裕を持った需要率を適用し、将来の負荷増加を考慮することが望ましいとされています。
14.まとめ|集合住宅の幹線設計は「負荷→需要率→電流→電線」の順番で考える
集合住宅の幹線設計というと、初心者には複雑に感じられるかもしれません。
しかし基本的な考え方を整理すると、それほど難しいものではありません。
重要なのは、「何アンペア流れるのかをいきなり考えない」ことです。
まず住戸の負荷を想定します。
次に住戸数を掛けます。
そして集合住宅の需要率を適用して、実際に同時使用されると想定する最大負荷を求めます。
その負荷を電流へ変換し、遮断器と電線を選定し、最後に許容電流や電圧降下などを確認します。
つまり、基本となる流れは、
住戸負荷の想定
↓
住戸数を掛ける
↓
需要率を掛ける
↓
想定最大負荷を求める
↓
負荷電流を求める
↓
遮断器を選ぶ
↓
電線サイズを選ぶ
↓
電圧降下を確認する
です。

初めて集合住宅の電気設備設計を学ぶ方は、まずこの「設計の順番」を理解してください。
そのうえで内線規程の需要率表、電線の許容電流表、電圧降下計算などを一つずつ確認できるようになれば、実際の図面を見たときにも、「なぜこの幹線サイズになっているのか」を逆算して理解できるようになります。
幹線設計で大切なのは、計算式を暗記することではありません。
「負荷を想定し、それを安全に供給できる電線と保護装置を選ぶ」という基本的な考え方を身につけることです。
この考え方を軸に内線規程を読み進めていけば、集合住宅だけでなく、事務所、店舗、工場などの幹線設計を学ぶ際にも応用できるようになるでしょう。